
最初、HEV以外の電気自動車についての解説をして行きたかったのですが、2017年7月に入り海外、特にヨーロッパでめまぐるしい動きがありました。
コレに伴い、2022年の自動車の姿として、海外編を先に書きたいと思います。
ヨーロッパの衝撃
もともとヨーロッパは環境意識が高いとされています(アメリカ率いる石油メジャーからの支配脱却をじっくり伺っていた様な側面も有り)。

https://www.afpbb.com/articles/-/2545660?pid=3580702
日本にいるとあまり感じないのですが、CO2への嫌悪がすごいです。
とにかく
CO2を削減しろ!CO2を出すな!
この大合唱で、とにかくCO2が親の敵と言っていいくらい悪者にされています。日本的な「燃費がいいから環境に良い」ではなく、欧州「CO2を出さないから温室効果を抑制できる」という価値判断が働いています。
グリーンピースとか居るしね。

https://www.ecool.jp/foreign/2012/03/ge12-dc1468.html
特にその流れが強かったのが、ドイツとオランダ。
ドイツは風力発電を強力に推進(記事)。色々目論見通りいかなくて、フランスから原発で作った電気を工面してもらったりもするんですが、少しづつクリーンエネルギーのシェアを伸ばしているようです。
オランダに関しては国土の1/4が海抜0m以下の干拓地で、温暖化による海面上昇が国益損失に直結するので、国民の意識も高いです。
突然の決議・法案提出
そんなわけも有ってか2016年、ドイツで「2030年までに発火燃焼エンジン(ディーゼル・ガソリン自動車)を禁止するという決議案」を採択しました(記事)。法律ではないため罰則など法的な拘束力はありません。ですが、今後の価値判断に大きな影響を与えることは間違いありません。

そしてオランダに関してはもう一歩踏み込んで、「2025年以降はオランダでガソリン車とディーゼル車の新たな販売を禁じる」(記事)という強烈な法案を議会に提出し、しかもそれが法制化に向けて進んでいるという状況が報じられました。
立法化されれば、ガソリンを動力とするいかなる車両にも適用されるそうで、近い将来にはハイブリッド車やプラグインハイブリッド車を販売することも違法となるらしい。(https://jp.autoblog.com/2016/08/21/2025-ban-gas-powered-cars-holland/)
正直な所、自分はこれは不可能だろうと思っています。いくらなんでも性急すぎる。法案に対して技術が追いついていないと思うのです。
欧州の自動車メーカーの状況

昨年のVW等のディーゼル自動車に対する不正が発覚するまで、欧州の環境車はディーゼルエンジンがかなりのウェイトを占めていました。
ただ不正発覚後、環境NGOなどの市民団体からの猛烈なプレッシャーも有り、ディーゼルの開発を大幅に縮小。加えて大幅な車両の電動化を進めなければ到底対応不可能なRDE規制(こちらの記事に概略をまとめています)が2018年から適用。実際に欧州メーカーは規制の厳しさにドン引きしたそうです。
欧州の自動車メーカーは電動車両開発に、いよいよ本腰を入れ始めてきています。
- BMWがi3やi8などで電気自動車を販売(公式HP)
- アウディはA3のe-tronなどのPHEVを販売(公式HP)
- ポルシェもカイエンやパナメーラのPHEVを発売中。
- ボルボも2019年から、販売するすべての自動車を電動化(HEV,PHEV,EV)にすることを表明しました(記事)
安全装置や環境面などで、高い先進性と判断基準を持つボルボが、こうしたPRをしたことを耳にして、あぁ時代が動くなぁと感じました。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-07-07/OSPI1D6K50YX01
そしてフランスが国として、2040年にはガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止する方向を示しましています(記事)。2017/7/29にはイギリスも同じような話を出しています。
2040年。23年後。
この段階での全面禁止は、極めて現実的なレベルだと思います。
そもそもここまで時代が進むと、「車は個人が大金を出して保有するものでは無くなっている」可能性が大いにあります。カーリースや配車サービスなどを使って、少ない車が最適に稼働するようなシステムが生まれているもしれません。
フランスの決断は、そういった状況の変化を加味しての方針表明かもしれません。
2022年の欧州で売られる車
さて、時計の針を2022年にターゲッティングした場合、欧州でどのような車が新車販売されているでしょうか。

上の図はAVL社の今後の地球上で走っている車の割合見通しです。
2022年断面では全体の3~4割程度が電動車になると考えられています(ただこれは結構強気な予想です)。
何れにしろガソリン単独で走る車の数はどんどん減っていき、なんらかの電動化がなされた車(のみと言っていいかも)が販売されると考えられます。
ダイムラー社とBMW社の両CEOが、パリモーターショー2016で、
「ガソリン車にはまだまだ改善する余地が残っている」
「電動化は進めていくが、いきなり全ての車が電気自動車になることはない」
と述べています。[参考リンク]
ということからも、ガソリン車をベースにした電動車がまだまだ幅を利かせることでしょう。

https://www.carsensor.net/contents/market/category_1491/_61772.html
またヨーロッパは平均速度が50km/h 1ヶ月の走行距離が1500km以上という、高速ロングドライブ環境です。
ちなみに日本は平均速度が30km/h 1ヶ月の走行距離は500km程度。
使われ勝手が違うことと、技術の進展具合から、次に販売されるであろう車の様子が伺えてきます。
予想

https://sustaina.me/?p=1218
自分の電動化の予想としては、欧州に限ってみると、
- HEV(48Vのマイルドハイブリッド)
- PHEV
- EVが極わずか
という割合になると考えています。
HEVの48V化とは

https://techon.nikkeibp.co.jp/article/HONSHI/20131122/318108/
聞きなれない人もいるかもしれないですが、今欧州ではこれがトレンドになりつつあります。
VWなどが中心になって研究を進めていて、アウディA8に搭載が決定しているようです。ルノー、PSAグループも盛んに研究を進めています。
普通バッテリーの定格電圧と言えば、乗用車で12Vが一般的です。コレに48Vのバッテリーを追加してしまおうという考え方です(参考)。
何でこんなことをやりたいか、そして最終的に行き着く姿は何なのか?と言うのを簡単に書きます。

https://car.watch.impress.co.jp/img/car/docs/1065/257/html/03.jpg.html
一言でいうと48V化は、エンジンにモーター機能付き発電機を装備した、マイルドハイブリッドになります(マイルドハイブリッドって言葉嫌いな人もいるかもしれませんが、便宜上今回はこれを使います)。
ホンダのIMAや、スズキがやっているS-エネチャージに近いですが、それよりも遥かにパワフル。
バッテリー電圧が昇圧を待たずに4倍になりますので、アシストするモーターはハイパワー。低速域では十分EV走行ができるでしょう。加速力も強く、走りを重視する欧州車にも向きです。また巡航時と回生時に発電機(オルタネーター)が発電する電力も増えるので、車としてのエネルギー効率もUPします。
比較的シンプルな改造で、エンジン始動時から加速時という、最もCO2的に厳しいゾーンを電動化できます。システムがシンプルなので小型車への適応ハードルも低く、厳しいRDE規制対応としては本命です。
ちなみに48Vという電圧は、60V以上になると高電圧扱いになって安全対策が非常に難しくなるので、その1段階したという事で設定されたようです。
新たな付加価値と発展性
また、これまで12V電源では使う事が出来なかった強力な機器を使う事で、乗り心地の改善も期待できます。
例えば低速域でのEV走行は静粛性にも寄与しますし、電磁サスペンションとか、エンジンの防振マウントの電動化もできるでしょう。

https://response.jp/article/2016/06/03/276285.html
自分がカンファレンスで説明を受けたところによると、48Vの強力な電力ソースを武器に、最終的には動弁系統や補機類まですべて電動化する流れもでているようです。
代表的なところでは、
- 触媒を急加熱するためにヒーターを装備 ⇒起動時のEV走行時でも触媒を温め排出ガス低減
- 強力な電動コンプレッサー&クーラントポンプ ⇒ファンベルト廃止、電動スーパーチャージャー
- カムシャフトをモーターで回す ⇒カムチェーン廃止
- オイルフィルター付きの電動オイルポンプ ⇒強制循環によりオイル量削減&オイルパン廃止
こんな形のエンジンを想定しているとか。
一時期バルブを超高速作動ソレノイドで動かそうとする研究をボルボが行っていましたが、高電圧化すればモーターで対応できそうなのです。
ちなみにカムシャフトのモーター化は、デンソーも実用化に向けた研究をしています。現在はバルブタイミングの電動化を行っていますが、今後駆動自体をモーターにしそうです(参考)
こうしてあらゆる補機類を電動化して、熱効率を上げていこうというトレンドが有ります。
PHEV

基本はレンジエクステンダーで、エンジンはバッテリー電圧を中心にチェックして発電機として使います。走行はモーター。
巡航時はエンジンの効率が良い状態なので、変速ギアをエンジンにつなげてエンジンの力で走りモーターはおやすみ。急激な加速時は、モーターとエンジンを同時作動させて加速力を生む。
というまぁ複雑なシステムのハイブリッドカーです。コレに蓄電ができるように電池容量を増やし、外部からの充電もできるようにしたのがPHEVになります。

https://carview.yahoo.co.jp/article/testdrive/20150915-20102598-carview/
日本では、アウトランダヤーやプリウスのPHEVがこれ。ホンダのアコードやオデッセイのHEVもコレに近い動きをします。
すんごいシステムが複雑で、でかいバッテリーも必要になるため電池技術との戦いも必要なのですが、大型車のCO2を削減できる数少ない方法の一つです。
売れまくっているSUVなどは、2022年ごろには軒並みPHEVになっていくと思います。

この辺はVWグループは強いです。
アウディでがっちりカネかけてシステム作り込んで、廉価グレードをVWブランドや商用車ブランドに展開して利益を取りに行けますからね。
このような金のかかるシステムは、グループ企業や共同開発などでいかにスケールメリットを出して開発費を回収するかにかかっています。
EV

コレはもうバッテリーの進化にかかっていて、いかに高密度かつ、車で使いやすいバッテリーが実用化されるかにかかっています。
現在世界最大のバッテリーメーカーであるパナソニック、そして他のメーカーがリチウムイオン電池の高密度化に動いていて、他メーカーも猛研究を進めています。
リーフクラスで500km走らせることができるという試作車を日産が作っているようなのですが、正直実用レベルでその領域まで到達できるかは疑問が残ります(日経オートモーティブ2017年5月号より)

また2030年台になると、リチウムやセラミックをベースとした全固体電池と呼ばれる次世代電池の実用化が予想されています。これはリチウムイオン電池の3倍の出力があると言われているもの。次期モデルの新型リーフが300km走ると言われているので、800~900km近く走ることができるようになる出力を持っています。
ただ2022年では実用化は厳しいだろうなぁ。。
長距離を走ろう、または高速度走行をしようと思ったら、電気をバンバン使います。電気をいかに溜めておけるか重要です。
もちろん変速機を使ったりして効率的なマネジメントをしようと努力はされているようですが、そもそもEVにどんな変速機が最適なのかはメーカーも狙いを絞りきれていない状況(日経オートモーティブ2017年5月号より)。
ガソリン車をベースにしたHEV/PHEVと比べ、そういった意味でも出遅れています。
充電問題

あとEVには充電問題がつきまといます。
現在も急速充電ができるとは言え、80%程度の充電に30分程度かかります。原理的に、バッテリーの電力密度が上がれば、充電にかかる時間も増えます。
そして充電速度をあげようとすればするほど、電池にダメージを与えてしまうため、充電方法のプロトコルを最適化して、極力電池に負荷を与えないようにして給電するというやり方を構築する必要があるのです。

とは言え、同頑張っても現在の技術の延長線では、500km以上走行できるような電力密度を数分で電池に叩き込むのは不可能です。
こういう問題も有りまして、2022年断面ではEVの普及は限定的になるだろうと考えています。
まとめ
https://chiichan-3.blog.so-net.ne.jp/2011-09-30
かなり長くなりましたが、ヨーロッパでの2022年頃の自動車の姿の予測です。
強烈な規制による引き締めに対応するには、電動化以外の道はなさそうです。ただ個人的には予想していたよりもかなり変化のスピードが上がっている感じがしています。
また電動化の進展で、車に対して新たな付加価値が生まれたり、逆に求められたりすることも有ると考えています。
業界の構図、そして社会の考え方も変えてしまう破壊力も持っているでしょう。
その辺に関して、最後のレポートで書いてみたいと思います。
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