
前回の記事で、車の電動化が進んでいるのかを説明しました。
原因は排ガス規制の強化です。
規制強化のため、対応を迫られた自動車メーカーは電動化という手段を選んでいます(参考)
では、なぜ強い規制が作られるのかを今回の記事で書きます。
この理由は大きく分けて3つ。
- 環境的に真剣にヤバイ
- 国家のエネルギーマネジメントの問題
- 政治的駆け引き
一つ一つ書いていきます。
環境的に真剣にヤバイ
現実問題として排ガスをきれいにしなければ環境的に厳しい地域も存在します。
アジア、特に経済発展が著しい中国やインド。ここらの都市部は待ったなしです。

https://www.sankeibiz.jp/macro/news/151218/mcb1512180500012-n1.htm

https://www.epochtimes.jp/jp/2009/10/html/d93458.html
言葉を失うほどの渋滞。白く・黄色く空を覆う排気ガス。インドや中国の大都市では、健康被害・粉塵被害が多発していて、対策が急務となっています。
最新型の日本車を走らせると、エンジンが吸い込んだ空気よりも、排ガスの方が綺麗(環境負荷物質の数値的に)と言うデータもあるようです。(エアクリーナーでチリほこりを受け止め、燃焼後NOx,SOxを触媒で還元)
…まぁ70年代の日本もコレに近い状況だったわけで。。

先進国の仲間入りをすべく、都市の近代化を進める両国としては、都市部を足掛かりに徐々に環境対応をしていきいたいという意思が感じられます。

また先述のVWの不正以降、先進国の環境問題を取り扱うNGOの人たちは、かなり勢いづいています。
- 「大企業が地球環境と市民に嘘をついて金儲けをしていた!」
- 「企業は真にクリーンな車を作れ!」
こういった声が、特にヨーロッパで盛んに上がっています。彼らに真剣に対応していかないと、企業イメージがガタ落ちしてしまうので、コストと環境性能のバランスを取りつつ、上手く舵取りしていく経営を自動車メーカーは迫られています。
国家のエネルギーマネジメントの問題
エコで地球にやさしい車を~~と言う本音には、
「石油を使わずに済むといろいろありがたい」
という国としての側面もはらんでいます。

https://xn--fbkq757ukybe7ppk8b2uf477anlcmu8bxeby5u.com/entry94.html
ヨーロッパの方では、いろいろ困難がありつつも自然エネルギーへの対応が徐々に進んでいます。
ドイツは風力発電、北欧は水力発電も盛んです。自動車の電動化が推進されれば、原油を海外から買う必要が無くなり、エネルギーの自給ができます。

https://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1702/22/news045.html
この観点ではノルウェーが世界トップクラスで先を行っていまして、新車販売の5割がEV/PHEVになるという快挙を成し遂げています(参考資料:補助金が凄いみたいです)
エネルギー確保において、為替や不穏な情勢とか、そういうものに振り回されなくなるのは、強い国家の条件の一つです。
日本も水素エネルギーへの転換を、30年レベルで計画していたりもします(経産省の資料)。
車の電動化は、国家間の枠組みも変得ていく力すら秘めるもの。
「CO2削減!」というスローガンを錦の御旗にして規制を強め、どんどん車の電動化からエネルギーバランスを転換させ、強い国にしていくという戦略で長期戦を挑んでいる国が、事実としてあります。
政治的駆け引き
前述のマネジメントの考え方とかなりオーバーラップする部分がありますが、排ガス規制が国家間の政治的駆け引きに利用されているという側面も見逃せません。
石油で儲けている人たち

石油が「あと30年で無くなる」と50年以上前から言われています。新しい油田が見つかったという体で、年次更新されていますが。。。まぁ有難がって使ってもらったほうが、石油で儲けている人には都合がいいんです。
またアメリカは、石油が採掘されたらドルを印刷できる国です(実際はFRBが発行する。石油のドル建て決済の事。詳細は割愛) 逆に言うと、世界で皆さんが石油をじゃぶじゃぶ使ってもらわないと、国として危うくなる危険性も秘めています。

オバマ大統領の時は、アメリカはCO2排出制限などの数値目標を盛り込んだCOP21パリ協定にも加盟し、「環境推進派の側面」もみせていました。オバマさんは完全なリベラル派でしたからね。

https://brave-answer.jp/12434/
ただトランプ大統領が、2017年6月に一方的にパリ協定の離脱を表明。アメリカが国際的な環境協定から距離を置いたのは、2001年の京都議定書に引き続き2回目です。
トランプ大統領自体、ホワイトハウスに「エクソンモービルの元社長を入れる(入れざるを得ない)」という、ウォールストリート界隈の影響力の大きさを、露骨な形で世界に示しています。
オイルメジャーと呼ばれる石油で巨万の富を得ている連中からすると、今後の自分たちの稼ぎを脅かしかねない協定からは距離を置き、今まで築き上げたスキームを維持して金を稼ぎ続けたい。そんな思惑も見て取れます。
まだ先行き不透明ですが、アメリカの排ガス規制の行き先は、現状維持を含めた緩いものになることも想定されています。
カリフォルニア州での排ガス規制の財源化
ただ面白いのはアメリカも一枚岩ではないということですね。
排ガス規制したいという人達もいるんです。
カリフォルニア州界隈に目をやると、「ガチのリベラリスト」さんが多く、環境問題に対しての意識が高い人がわんさかいます。

その人達が作ったのが、ZEV法(Zero Emission Vehicle法)という法律です。
この法律はざっくりいうと、
「カリフォルニア州内で一定台数以上自動車を販売するメーカーは、その販売台数の一定比率をZEV(排ガスを出さないクリーンな車)にしなければならない」
と言うものです。
これは2001年位から計画されていた法律で、当時は米国BIG 3(GM, FORD, CHRYSLER)もかなり反対していたこともあり限定的なものでした。しかしリーマン・ショック後のGM破綻で一気に法制化に勢いがつき、2010年台に実際に施行され始めたという経緯があります。
クレジット制度
ただ現実問題、販売車両の何割かをZEVにするというのは2010年代のレベルでは困難。
そこで考えられたのがクレジット制度です。
- EVやFCVなど全く排気ガスを出さない車は、1台売ったら20クレジット(20台分のガソリン車を販売できる)。
- PHEV(プラグインハイブリッド)だったら10クレジット
- HEV(ハイブリッド)だったら5クレジット
という風に、車の排ガスの低減具合でランク付けをして、段階的に規制を厳しくしていくという経過措置を設けていました。
で、このクレジットですが、ガソリン車を売りたいけれど、車メーカーのクレジットが不足した場合に取る方法は2つ。
- カリフォルニア州に罰金を払う(高額)
- 他のメーカーからクレジットを買う(安くはないが罰金より安価)
この何れかを使います。
アメリカのテスラモーターズなんかは、売る車が全てEVなのでクレジット溜まりまくり。なので日本メーカーにバンバンクレジットを売ったと言われていて、2013年前半で140億円のクレジット売買益が出たと報じられています(参考)。2016年はおそらくもっと・・・。
ちなみにGMやフォードとかはどうやってクリアしたかというと、環境対応車も頑張って作ったんですが、足りない分は電動コミューターを安価で売ったんです。

https://www.wfyi.org/news/articles/gm-commuter-concepts-predicted-chevy-volt-and-bolt
アメリカって街全体が老人ホームになっているようなコミュニティがあちこちに有って、そこで使えるゴルフカートに毛が生えたような電動車をまとめて安く売ったんですね。
それでクレジットを稼いで、急場をしのぐという反則みたいな技を使って乗り切っています。
この収益は、最終的には国や州の税収となります。
なので、法規制して空気もきれいになって、お金も巻き上げようぜ!海外メーカーから。
って言うのりなんです。
・・・こういう仕組み作ってお金も受けるの、アメリカ人ほんとうまいよね。
ZEV法の2018年問題
そしてこのZEV法には、2018年問題というのが控えています(参考)。
ざっくりいうと、

- 販売台数が少ない車メーカーも適応対象になる
- カリフォルニア州だけでなく、13州に広がる
- HEVがZEVの範疇から外れ、クレジットが発行されなくなる(下手したらPHEVも)
という大問題です。

https://car.autoprove.net/2017/01/39429/
今までBMW, ヒュンダイ, VW, メルセデスなどは、販売台数が少ないという理由でZEV法から逃れられていたのが、ガッツリ対象に。
国内ではマツダやスバルも対象になっています。
BMWはEV戦略打っており、メルセデスも計画中。マツダや北米で好調なスバルは・・・・どうするんでしょうね。
何も考えていないわけはないでしょうが、苦しい戦いになることは容易に想像できます。
規制強化のまとめ
何故、排ガスに関する法規制がどんどん厳しくなっていくのか、理由を3つまとめました。
- 環境的に真剣にヤバイ
- 国家のエネルギーマネジメントの問題
- 政治的駆け引き
この3つです。

https://response.jp/article/2015/10/08/261658.html
次のレポートでは、2022年頃にどんな車両が走っているのか、近未来の自動車のトレンドについて書きたいと思います。
皆さんコレ知りたかったと思うので、だいぶ前置き長くなっちゃいましたね。
すみません(汗
次回は堅い話ではなく、もっとライトにメカニズムとかを語っていきたいと思います。
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